〚編集者ブログ〛TeRasaKi THiNKS

書籍編集者の日々のバブル

編集者は書籍のタイトルをどうやって練るか?

本の売れ行きを大きく左右する要素に「タイトル」がある。

あくまでも個人的な見解だが、書籍の売れ行きを決める80%くらいの要素が「タイトル」と「カバーデザイン」だと思う。なぜならば、ここでコケると、まず「誰かに手に取ってもらう」という最初のステップをクリアできないからだ。

どんなに内容が素晴らしくて、どんなに時間をかけて作り上げたコンテンツでも、まずは手に取ってもらえないと返品されてしまう悲しい世界である。

カバーデザイン、つまり商品のパッケージを作るにあたっては、商品名=タイトルが決まっている必要がある。

したがって、原稿が揃った段階でもっとも最初にやるべきは「タイトル」を決めること。

タイトルは「商品名」である。

ここで商品の特徴や売りから遠く離れた名前を付けられてしまうと、必要な人に届く確率がグッと下がってしまう。

タイトルのつくりかた①――企画の強みを明確にする

タイトルを練るやり方は各編集者ごとにそれぞれだろうが、私の場合はだいたい以下の過程を経る。

【ひとりタイトル会議】
①企画の強みを明確にする
パンチラインをメモ
③ひとりタイトル・ブレスト
④よさげなタイトルをA4の紙に書き出す
⑤最後に4案ぐらいに絞る

書籍で表現するコンテンツ(あるいは著者)の強みを洗い出す作業は、タイトル案を正しい方向に着地させるために必須だ。なんとなくつけたタイトルは、なんとなく読者に届いて、やっぱりなんとなく売れない結果になることが多い。

ここではサンプルとして、ロングセラーとなった『お金は寝かせて増やしなさい』(水瀬ケンイチ・著)を使って説明をすすめる。

最終的に『お金は寝かせて増やしなさい』というタイトルに決定したこの本だが、企画段階は『誰がやってもうまくいくインデックス投資という仮タイトルだった。

著者の水瀬さんが書き上げた原稿をもとに、水瀬さんと相談しつつ編集作業を進めるなか、次のような要素が加わることで、グングンとコンテンツの強みが増していった。

①各章のあいまにマンガを入れることで投資の紆余曲折をストーリー化
②15年間にわたる水瀬さんの実際のポートフォリオの金額増減を初公開
③ブログ読者から問い合わせの多かった「出口戦略」も解説

②に関しては、さすがに渋る著者の水瀬さんとの度重なる交渉に難航したが、なんとかGOサインをいただく(結果、この内容が大反響を呼ぶことに。水瀬さんありがとうございました)。③の出口戦略は投資指南本ではなかなか言及されないことなので、十分な「売り」になるだろうと踏んだ。

そこで【この企画の強み】を以下に絞った。

本書が持つ「インデックス投資の解説書」という基本要素+αの強み。

・ほったらかしで手間がかからない投資術→△これは優位性ない要素
・日本国内で唯一インデックス投資を15年間続けている著者→◎
・バイブル的ブログ「梅屋敷商店街のランダム・ウォーカー」の著者→◎
・著者が金融のプロではない、普通のサラリーマンであること→◎
・投資のど素人でもプロと互角以上に戦える証拠あり→◎
インデックス投資の「出口戦略」まで触れていること→◎

タイトルのつくりかた②――パンチラインをメモ

次に、①で洗い出した強みを表現するパンチラインをどんどん思いつくままにメモにしていく。パンチラインとはヒップホップ、ラップの世界での「印象的なフレーズ、言い回し」という意味だが、こういうのが意外と移動中とか、なにか別のことをしているときに思いつくことが多い。故に思いついたらすぐにスマホにメモできる体制に日頃していくのが重要となる。

これは次の「ひとりタイトル・ブレスト」の材料にもなる。

タイトルのつくりかた③――ひとりタイトル・ブレスト

ここからいよいよ、タイトルの形をつくっていく。『お金は寝かせて増やしなさい』のときのメモがみつからないため、別の書籍での事例を挙げておこう。

これは『幸せを拒む病』(笠原敏雄・著)という新書のときにやった「ひとりタイトル・ブレスト」の結果だ。

幸福否定
幸福否定論
不幸論
幸福という悪魔
幸せになる覚悟
不幸依存症
ふしあわせがだいすき
みんなだいすき、不幸せ
わたしたちはなぜ、幸せになれないのか。
幸福否定の研究
間違いだらけの幸福論
一番やりたいことを先延ばしして
結局やらずに一生を終えてしまいそうなあなたへ
人生の不幸せがなくなる本
人生の不幸がなくなる本
ひとはなぜ「完全な幸福」を怖がるのか?
しあわせが恐い症候群
心の悪魔の殺し方
「しあわせ」という病い
幸せになれない病
みんなだいすき「不幸(フコー)」の味。
幸せを求めるほど、幸せが逃げていくのはナゼ?
幸福を否定するひとびと
完全幸福否定論
~人はなぜ、いつも「不幸な選択」をしてしまうのか~
つい、不幸を選択してしまうのはなぜか?

タイトルのつくりかた④――よさげなタイトルをA4の紙に書き出す

③でブワーーっと出した案のなかから「これよさげ」と思うタイトルを直感で選んで、A4の紙に「カバー表紙風」に書きだす。これは個人的にはけっこう楽しい作業。③④の作業はお酒飲みながら、一人きりの開放的な環境でやったほうがいいアイデアが出る気がする(なので、いつも家族が寝静まってからやる)。

タイトルのつくりかた⑤――最後に4案ぐらいに絞る

これまた④をブワーーっと書いたら、いったん寝る(ここ重要)。

イデアは熟成させたほうがいいのと、夜な夜なお酒を飲みながら考えたアイデアは60%程度がゴミであることも多いからだ。

前日に直感的に選んで書いたタイトル案を、今度は冷静な頭脳で(なるべく)論理的な理由をつけて、さらに選んでいく。最終的に4案程度に絞る作業を終えたら、孤独なひとりタイトル会議はようやく終了となる。

「三人寄れば文殊の知恵」で決まるタイトル

フォレスト出版では、編集部と営業部のメンバーが顔をそろえて「タイトル会議」をする。その会議に最終的な4案(あるいは4パターンぐらいに分けられるタイトルの方向性)を提案して、みんなであーでもないこーでもないと議論して決めるのだ。

『お金は寝かせて増やしなさい』のタイトル会議では、「タイトルに”インデックス投資”の言葉は入れるべきか?」がひとつの検討課題であった。

当時ベストセラーだった類書も「じつは中身はインデックス投資」だったりしたものの、「インデックス投資」は文字面も硬いし、なにより「インデックス投資という単語を知らない読者に素通りされるリスク」がいちばん怖い。ということで「インデックス投資」はタイトルには含めないことに決まった。

じつはタイトル会議の当日に提案した最終タイトル案は『お金は寝かせて増やす』だったが、編集部メンバーから「うーん、末尾は『増やしなさい』と少し強い調子のほうがいいんじゃないか?」という意見が出て、『お金は寝かせて増やしなさい』に最終FIXした経緯がある。タイトルに限らず、なにごとも「人の意見を素直に聞く」という姿勢は大事だ。

【帯でアピールする要素】
インデックス投資歴15年の実践記を初公開
◎投資の入り口から出口戦略まで一挙解説
◎金融のど素人でもプロと互角以上に戦える
◎ほったらかしでお金が増えていくしくみがつくれる
◎マンガが入っていることがわかるような工夫

で、最終的にこうなった。

 

以上、【本づくりの舞台裏】タイトル編でした。

 

※本記事はフォレスト出版公式noteからの転載です。