〚編集者ブログ〛TeRasaKi THiNKS

書籍編集者の日々のバブル

はじめまして。

寺崎翼です。

ビジネス書を中心とした書籍の編集をしています。

 

【おもな担当書籍】

『お金は寝かせて増やしなさい』水瀬ケンイチ(14 万部)
『思い通りに人をあやつる 101 の心理テクニック』神岡真司(13 万部)
『最高の結果を出す KPI マネジメント』中尾隆一郎(7万部)
『なぜかうまいくいく人のすごい無意識』梯谷幸司(6万部)
『「言葉」があなたの人生を決める』苫米地英人(5万部)
『孤独が男を変える』里中李生(4万部)
『シンクロちゃん』(3万部)
『聴きながら眠るだけで 7 つのチャクラが開く CD ブック』永田兼一(3万5000部)
『成功する人が知らずにやっている最強の魔除け』日下由紀恵(2万6000部)
『働くあなたの快眠地図』角谷リョウ(2万 3000部)

 

(書店未流通・オンライン販売のみ)
『マインド・プロファイリング豪華書籍版【DVD 付】』苫米地英人 ※高額書籍

企画が通る・通らない問題

先日、とある他社の出版社の方々とZOOMで雑談する機会があった。その版元はビジネス書とは異なるジャンルだったが、ジャンル以外にもいろいろ違いがあって新鮮だった。

フォレスト出版「月2回の企画会議」「1回の会議で2本以上の企画書を提出」をノルマにしている。刊行予定点数が足りない場合は2本以上出してもいいし、最近だと書店流通させないネット販売限定書籍とか、ボーンデジタルといった企画もあるので、それらは「+α」の企画として本数には数えない。

つまり、月4から5本の企画を考案してるわけで、年間で合計すると50本前後の企画書を作っていることになる。

一方、各担当者が年間につくる新刊は平均して9点

ということは「企画通過率18%」ということになる。
なかなか狭き門だ。

個人的には「企画がなかなか通りにくい」という状況は健全だと思う。

ご存じのように(といってご存じない方も多いかもですが)、出版業界は「とりあえず新刊出せば、出した分の売上げは取次から振り込まれる」という古くからの業界慣習をベースにした自転車操業の出版社が多いので、「とりあえず新刊を出す」という出版社は多いのが事実だ。

この風潮が業界全体のクビを締めている。

だから「企画がなかなか通りにくい」は出版社としては健康的だと思う。

「企画書の自信度」と「実売」は比例する

じつは、「企画が通る・通らない」はけっこう早い段階で決する。

それは「企画書の段階で企画者自身がイケるかどうか見極めているかどうか」だからだ。

企画者自身が「これは絶対イケる!」と思う企画のほうが、売れる確率は(あくまでも確立論ですが)高い。

企画者自身が「これ、イケるかな・・・?」と不安な企画はえてしてコケる可能性が高い。企画した段階での自信度は、実際のセールスに合致する。自分の場合はほとんどこれ、当てはまる。

「企画書が8割」という人もいるが、あながち間違ってはいない。

企画が通らない理由

「企画が通らない」は編集者の場合、ヤバい事態だ。フリーランスの編集者の場合は「企画=商売のタネ」なので、これが現金化できないとなると死活問題となる。

出版社に属する編集者でも、企画がぜんぜん通らなくて他社に新天地を求めて転職したケースもある(実話です)。

企画が通らないという場合、大きく分けて3パターンが考えられる。

①著者はOKだけど、テーマ・切り口がNG
②テーマ・切り口はOKだけど、著者がNG
③著者・テーマともにOKだけど、切り口がNG

「著者はすごくいい」「プロフィール、実績が魅力的」だけど、「なぜ、この著者がこのテーマを書く必要があるの?もっとふさわしい題材があるのでは?」と問い詰められた場合の理由が弱い企画は通りにくい。②はその逆パターン。

じつは一番このパターンが多いと思われるのが③。著者、テーマともにバッチグーだけど、切り口が弱い場合。よくあるのが「過去の著作とどう違うの?」「どこが新しいの?」という指摘に、スパッと答えられない企画は通りにくい。

「企画が通らない理由」をもう少し深掘りしてみると――

④企画の面白さが企画者以外に伝わらない
これも企画書アルアルだ。「なんで、この面白さがわかんねーのかなぁ……」というジレンマ。企画会議の参加者は「その企画のいちばん最初の読者」と仮定すれば、「面白さが伝わらない」は致命的である。

なので、人によっては
◎サンプル原稿を付ける
◎紙面見本をつくって見せる
といった工夫を凝らして伝える努力をする。

⑤客観的データに乏しい
これは④に近いが、どれだけ面白くてスゴい著者が書いた、超魅力的なコンテンツでも、「面白い」も「魅力的」も受け止め方は人それぞれ、きわめて主観的なため、「面白さ」「魅力」を担保する客観データが必要になる。

「類書の実売」「ページビュー」「指導実績○○万人」「5年先までキャンセル待ち」「講演実績○○○社」といった具体的な数字で、そのすごさをアピールしがち。

そのほか、著者のSNS発信度が最近は問われる。ブログやYouTubeといったメディアを持っているか、持っている場合はアクセス数やチャンネル登録者数はいかほどか、などなど。客観的なデータが「企画が通る状況」を後押しする。

全員賛成の企画は売れるのか?

ここまで進めてきた「企画が通らない問題」の分析だが、逆に「全員賛成」の企画は売れるのか?

ケースバイケースだが、たとえば「出せばある程度の部数は見込める大物著者」であれば、売れる可能性は高い。とはいっても、出版はほとんどギャンブルなので、明言はできない。

人によると思うが、私は全員賛成の企画=最大公約数の企画にはあまりワクワクしない。

ソニーウォークマンの誕生秘話にもこんな一節がある。

「私はこの素晴らしい製品に情熱を燃やしていたが、販売部門の人たちは一向に熱意を見せず、これは売れそうもないと言う」盛田 昭夫 『MADE IN JAPAN』より

当時、一世を風靡したウォークマンだが、開発から発売に至るまで、社内社外問わずに「こんなもん売れるわけない」と総スカンだったそうだ。

周囲の総スカンをモノともせず、セブン・イレブン事業を成功させたセブン&アイ・ホールディングス代表取締役会長の鈴木敏文さんはこんな名言を残している。

セブンイレブンを作った時も、銀行を始めた時も、業界内やマスコミから総スカンを食った。うまくいくなんて誰も言わなかった」

みんなが賛成することはたいてい失敗し、反対されることはなぜか成功する。

スティーブ・ジョブズにも「反対意見が出たら、チャンスだと思え」みたいな名言があったような気がする(出典不明)。

つまりなにが言いたいかというと、盛田昭夫さん、鈴木敏文さん、スティーブ・ジョブズ氏が「みんなが賛成してくれたアイデア」を選んでいたら、ウォークマンも、セブンイレブンも、アップルも生まれていなかったというわけだ。

【結論】
「企画が通らない」「自分のアイデアが理解されない」は
成功のチャンスと捉えよ。

企画を通すための究極の方法

最後に「企画が通らない」とお悩みのすべての人に、「企画を通す究極の方法」をお伝えする。

それは――――――
しつこく何度も何度も手を変え品を変え、企画書を出し続けて、周囲に「こいつアタマおかしいわ」と思わせて、むりやり企画を通す、だ。

結局、企画やアイデアは「言い出しっぺ」の熱量に帰結する。

「そこまでして、おまえやりたいんだ!?」
「じゃあ、思う存分やってみろ!」

こう言わせるまで、しつこく歯を食いしばってがんばりましょう。

詩人・言葉の達人としての山本耀司

編集の仕事をしていると「この人の本を作りたい」というのが、どうしてもある。

でも、属する出版社のジャンル傾向に合致していないと、正直厳しい。

自分のなかでそんなモヤモヤな対象が「山本耀司」だ。

山本耀司は文筆家としてスゴい

山本耀司=ヨージ・ヤマモトは日本を代表するファッションデザイナーとして広く知られているが、じつは「文章」もすごい。

たとえば著作の『MY DEAR BOMB』(岩波書店)の冒頭の一節がこれ。

だいたいにして男というものは、時折、頭のいい女の中に同胞の片鱗を見たりする他は、男としての分際を際立たせてくれるあたたかい容れ物を探しているのが常である。

いわゆる女らしさにはもう疲れてウンザリと言いながら、一度でも女の中にその自我を見すぎてしまった男は、ついに女を憎むようになり、以後、その面影を振り払うようにして、さくらんぼうの一方を突いては揺らし、手管で女を弄ぶ。

畢竟、男は自らを越えるものを許せないのであって、男は自らのみを愛す。もちろん、縁もゆかりもない人間と一瞬すれ違って会釈を交わすというような、雑踏の中の孤立をギリギリのところで穴埋めする最低限の契りの中に、ふと人生の幸せなどという大袈裟な瞬間を見出すこともあるだろう。あるいは、それこそが人間という世界に存在する最も美しい躾(しつけ)の進化なのかもしれないのだが。

一方、女は、そんな男という生き物の中に鼓動する情けないほどの愛おしさを愛してしまう。殊に痕のある魂に足をとられて愛おしい狂おしいとなれば、一生を泣いて過ごし、"My Dog is working like a dog"という女の言葉がその男への最大の賛辞となって深く掌に抱けば、一生をともにすることになるだろう。
――――これは、わたしが愛した、ある一人の男の話である。

山本耀司『MY DEAR BOMB』(岩波書店)より

ダンディズムに溢れた文体に痺れる。

男であれば誰しも皆、同じようなことを考えている。今、自分が生きている人生から逃げてしまいたい、どこかでいい女と出会って逃げてしまいたい、と思っているに違いないのだ。ただそれを実行しない男がほとんどだ、というだけのことである。

人として生まれ、少しでもモノに悩み、少しでもモノを考える人間であれば、まずは親をぶっ殺したいと思い、好きな女ができてもお役所に届け出て籍を入れるなどということは馬鹿馬鹿しくてやっていられない。では、なぜそんなことをしているのかといえば、自らのエゴや強烈な欲望を押し殺してでも、家族を悲しませない、というシンプルな選択をしているだけのことで、そのためにただひたすらガマンしているわけだ。

だから、シンプルは間抜けとも言う。

長く生きていると、若い時分に自分で決めた人生の姿勢では対応しきれない事態が往々にして勃発する。人生の大通りから外れて横道を歩こうという人生の選択しかり、おまえたちには口を出さないから、わたしにも口を出さないでくれという暗黙の了解しかり。生涯そうして生きてやろうと心に決め、早く人生やっつけて早く終わりにしたい、と思い続けてきた。

その思いは、今でもまったく変わらない。

山本耀司『MY DEAR BOMB』(岩波書店)より

「父兄参観」と題された文章の冒頭部分がこれだが、じわじわ共感する男性も少なくないと思う。コム・デ・ギャルソン川久保玲しかり、この世代の「世界に認めさせた日本人クリエイター」の言葉からにじみ出る反骨精神は刺激に満ちている。

もうひとつ、好きな文章を紹介する。

辞書に書かれているモダニズムの定義などに、安易に騙されてはいけない。人間の根源的な哀しさ、生きる疑問を忘れて、モダニズムに走るな。

世の中の権威、制度、体制、それらすべてに反抗することは、常にマイノリティの立場にあるということだ。わたしは、いつだって反抗する側の人間、マイノリティの側にいる彼らにこそシンパシーを感じる。

この自分を取り巻く状況に望んで生まれてきたわけではない。どうして何もかもがこうなのだ、という人間の原初的な不公平に寄り添って生きること。それを忘れてしまえば、どんなに新しそうなことをしたとしても、人の魂には響かない。
響くはずがない。
「どうして何もかもがこうなのだ、という人間の原初的な不公平に寄り添って生きること。それを忘れてしまえば、どんなに新しそうなことをしたとしても、人の魂には響かない」という一文は自分の仕事にも生かせる教訓という気がする。

わたしは、すべてのファシズムが嫌いである。権威が嫌いである。偉そうなものも大嫌いである。権威のない服を作るのが、わたしの課題であり、女物は特に、イイ女に見えるとか、お嬢様に見えるとか、だいたい、あのリクルート・ファッションって何だ? 有能そうに見せて、ただオヤジをひっかけるだけの服じゃないか。

・・・まあ、そんなこと、どうでもいいか。
たかが人生なのだから。

女よ、一生、女でいてくれ。女を売りにしたり、誰かの奥さんになったり、キャリア・ウーマンになったり、そんな肩書に生きるのではなく、女よ、ずっと女でいてくれ。

山本耀司『MY DEAR BOMB』(岩波書店)より

 

こんな感じの山本耀司ワールドが楽しめる唯一の著作『MY DEAR BOMB』の表4帯のキャッチコピーは

いつしか、確信犯的なロックンロールが始まる。
というもの。

カバーのない洋書のような真っ黒の装丁で、随所に強烈な美意識を感じさせる『MY DEAR BOMB』。残念ながら、現在は品切れ重版未定で手に入りにくくなってるようだけど、刺さる人にはグサッと深部まで刺さる劇薬的な本だ。

山本耀司はミュージシャンとしてもスゴい

ヨージ・ヤマモトはもともとミュージシャンを目指していた時期があるそうで、これまた独特の世界観を有する音楽を創り出していて、CDもいくつか発売されている。

なかでも1998年にリリースした『地下生活 Dog of Terror』という作品が傑作だ。当時、このアルバムの制作風景を撮影したドキュメンタリーがテレビで放映されていて、たまたま観た瞬間に「山本耀司ヤバい」と思ってCDをすぐに買った記憶がある。

山本耀司の「言葉」に圧倒されたのはこれがきっかけだった。

 

『ガラスの時代』


あっちを向けと言えばあっちを向くんだね
こっちを向けと言えば素直に向くんだね

逆らう手間が面倒なんだね
怖いくらいに冷たいんだね

雨だってあんなに真面目に降ってる
冬でさえこんなにまっすぐ寒いのに

こんなに突き放されたら生きていけない
こんなに遠く離れたら歩いて行けない

人に合わせて仕事を変えたり
仕事の通りに自分を変えたり

アホみたいに暮らすんだね
絶望の時代だから絶望するんだね

ガラスの時代の容れ物なんだね
心も身体も借りてきたんだね

悲しさに耐えていける訳だから
幸せにも耐えていけるというんだね 

 

この歌詞にぶっ飛んだ。「世界のトレンドを作り出している最先端モードの人がこんなメッセージ発してていいの?」と率直に思ったのと同時に、「絶望の時代だから絶望するんだね」と突き放した感じで言われてショックを覚えた。

※残念ながらこのCDも廃盤で、手に入りにくい。

 

最後に山本耀司の名言をいくつかご紹介しよう。

「僕はデザイナーという職業でいながら、デザインって言葉が嫌いです。
『画策する』とか『謀る』みたいな『悪だくみ』みたいな語感に近い」

「人間がつちかってきた美術、美意識、伝統の完成度。これらの隣におくことができるかどうかが問われる。壊すのは子供でもできる。伝統の美しさと対等な力で存在しうるかどうかが壊すことの難しさ」

シンガポールは、路上でタバコ吸うと、罰金取られるでしょ、昔からそういう条例があるところだから、好きじゃないんだ、清潔で。俺が好きなのはダウンタウン

「黒いブーツと ギブソンがあればいい」

「服を選ぶってのは人生を選ぶってことだ」

「ぼくがやってきた仕事は、ファッションデザインという職業そのものへの反発から始まりました」

「至る所にコンビニや自販機がある今の日本ほど、安い便利を生きている国はない。その中で、若者は夢が見つけられずに苦しんでいる。強いあこがれさえあれば、人間飲まず食わずでもやれるのに」

編集者はどうやって企画を立てるのか?

企画。

 

編集者にとっては、悩ましくも楽しい、この2文字。

 

なにかしらアイデアの芽を見つけたら、「企画書」という形に落とし込むまでがファーストステップだ。本稿では「アイデア」⇒「企画書」に至るまでの過程を分解してみる。

 

ネタを集める

『ネタ』
 ねたとは「生活の糧」を意味する「飯の種」などに見られる『種(たね)』の倒置語(ハワイをワイハーというようなひっくり返していう言葉)で、古く江戸時代から的屋が商売の糧となる「商品」のことをねたと呼んだ。 ここから、各職業や商売において、店にとっての「商品」のように核(糧)となるものをねたと呼ぶ。
Webサイト「日本語俗語辞書」より


まずはこれだ。ネタ。

書籍に関わらず、あらゆる商品のスタート地点が「ネタ集め」だろう。書籍企画の場合、アイデアは至るところに転がっている。アイデアの拾いやすさ順にわけると実は次のふたつしかない。

 

①自分が知りたいこと
②他人が知りたいこと

 

①は簡単だ。自分がいま悩んでいること、著者にインタビューして根掘り葉掘り聞きたいことをテーマにすればいい。お金、人間関係、健康など、なにかしら誰もが悩みを抱えているから、それこそ企画のアイデアは無尽蔵である。

②は想像力が必要となる。「いま世の中のひとはなにに悩んでいて、何を知りたいのか?」を考える。こっちは「どこまでニーズがあるか?」を推しはかる必要があるため、想像力が必要となるが、これだけ変化の激しい時代だから、こちらもアイデアは無尽蔵といえる。

「ネタ集め」とはつまり・・・
尽きることのない「人間の欲望集め」ともいえるかもしれない。

ちなみに「①自分が知りたいこと」「②他人が知りたいこと」がちょうど合致すると、ヒットの確率は高まる。①と②が大きくずれていて、担当編集者にとっては超ホットなテーマでも、世の中的には無関心だと、編集者の独り善がりで終わり、セールスも残念な結果となってしまう。

図にしてみるとこんな感じだ。

ネタの集め方は、とにかく起きている間にアンテナにキャッチした「ワード」をただひたすらネタ帳にメモっていく。キーワード(テーマ)、人名(著者名)がメイン。

かつてはモレスキンのノートにネタをしたためていたが、最近はGoogle keepを活用している。

「ネタ帳にネタを書く」というのは、アイデアを熟成させるのに重要だ。

というのも、「ネタ帳に書いたネタ」は脳にかすかに刻まれるので、ネタ帳に書いたがために脳の焦点化が起こり、道を歩いていてそれに関わる広告を発見したり、なにげなく読んでいた新聞で「あ、この記事、あの企画に使えるかもしれない」と気づいたり、同僚とお酒を飲んでいるときに「それ、いただき」というナイスなアイデアを頂戴したり、いろいろと有機的にネタが日常で動き始める。

なにより、アイデアが蓄積していくので、「ネタがない」と困ることがなくなる。

蓄積したネタを精査する

ネタは溜まった。さあ、どうする。

蓄積したアイデアのなかから、成功確率の高そうなテーマ順に、企画会議に提出する企画書に落とし込んでいく必要がある。

ここからは担当した『最高の結果を出すKPIマネジメント』(中尾隆一郎・著)を事例に説明していこう。

「KPIマネジメント」が書籍テーマとして「イケる!=売れる」と思ったのは、次の3つの理由からだった。

理由① 丸善丸の内本店で他社の既刊がずっと面展開されていた
理由② 競合書がすべて「コンサル目線」で内容も難しかった
理由③ Googleトレンドの検索結果

理由① 丸善丸の内本店で他社の既刊がずーーっと面展開されていた

私は定点観測のための書店として、都内の意識高い系ビジネスパーソンの王道的書店「丸善丸の内本店」を定期的に覗くようにしている。定点観測していると、たまに「おや?」という発見があるからだ。

書店の店頭では新刊のときこそ「面展開=表紙をオモテにして陳列」されるが、時間が経つほど「棚差し=棚に差されて背表紙しか見えない状態」になってしまう書籍がほとんどだ。ところが、いつ行っても1階の話題書の裏の棚にずっと面展開されている本があったことに気づいた。

それが2015年に日本能率協会から出版されている『KPIで必ず成果を出す目標達成の技術』だ。

東洋経済新報社のこれまたロングセラー『現役東大生が書いた 地頭を鍛えるフェルミ推定ノート』という本と並んで、固定位置に常に目立って置かれていた。

当時は2017年だから、2015年刊行の『KPIで必ず成果を出す目標達成の技術』は2年間も面陳列されてるわけだ。数週間で”返品上等”なこの世界ではすごいことだ。

「これは狙い目かも」と、ちょっと興奮しながら、ネタ帳にメモした記憶がある(当時はクオバディスの小さなメモ帳)。

幸いにして、競合書もそれほど多いジャンルではなかった。

理由② 競合書がすべて「コンサル目線」で内容も難しかった

さっそく競合書籍を調べ始めて、すぐにわかったことが一つあった。どの既刊書も著者がコンサルタントで、ごく普通の一般ビジネスマンの感覚だと内容が難しく感じられたのだ。

「現場目線で書ける著者さんに依頼すれば、これイケるかもしれない」と、またさらに興奮した。

理由③ Googleトレンドの検索結果

「KPI」「KPIマネジメント」といった特定のワードの場合、Googleトレンドで検索してみると、「世の中の人がどれだけそのワードで検索しているか」がざっくり相対的にわかる。

googleキーワードプランナーを使ったりした方がより正確なのだが、Googleトレンドでも十分にわかる。

企画した当時、社内では『PDCAノート』という書籍がよく売れていた。のちにシリーズ10万部突破となった。

ぶっちゃけ「PDCAみたいな地味なテーマでこんなに売れるんだ!」と正直びっくりしたので、Googleトレンドで過去5年間を対象に「PDCA」を検索してみた。

「おぉ、なるほど!」

 

Googleトレンドで普通のワードを検索すると、だいたいスコア20前後の位置でうねうね推移していて、突発的にバズったりして突然100になるものの、またすぐに低推移というパターンがほとんどだが、PDCAは上下にうねうねしながらも「スコア75前後」をつねにキープしていた。ある一定層のボリュームの人口がつねに「PDCA」とGoogleの検索窓に打ち込んでいるシーンが想像された。

そこれ「KPI」も調べてみた。

すると、PDCAとほぼ同じ動きしている。


「これ絶対にイケるんジャマイカ?」と、再びさらに興奮した。

著者候補を選ぶ

テーマは「KPIマネジメント」に決まった。
テーマ(仮タイトル)だけでは書籍企画書としては成立しない。つぎに、そのテーマを誰に書いてもらうか。著者候補を選ぶ必要がある。

この本の場合、著者の選定基準は明快だった。

◎KPIマネジメントの専門家
◎KPIマネジメントを実践する現場のプロ

この2点だ。

さて、誰か適任者はいないか。類書を調べたり、記事を調べたり、詳しそうな人にヒアリングしたり「著者探し」を始めた。

この本の企画書をまとめたのがちょうど2017年11月。その2ヵ月前の9月にNIKKEI STYLEに掲載されたこんな記事を発見した。

 

え、なにこの記事、めちゃくちゃわかりやすくて面白い。

書いていたのは中尾隆一郎さんという著者でした。

「何者なんだろう?」と中尾さんの経歴をググってみると・・・

 

リクルートグループの営業畑で相当な実績を上げた人物
②もともと理系でリクルートテクノロジーズの代表も務めた
③ご自身でもKPIマネジメントをガンガンに実践
④KPIのリクルート社内講師として10年活動(!)

 

「KPIマネジメントの専門家」かつ「実践する現場のプロ」、しかも社内講師として10年間の実績があるのもすごい。リクルートグループはありとあらゆる業種を抱えた巨大企業だ。故にそれぞれのKPIマネジメントはまったく異なることが想像される。それを一手に指導していたというのだ。

 

著者候補の条件にこれ以上ふさわしい人はいない!

 

そして、最終的に企画書に落とし込む(以下が実際の企画書の一部)。

このあとの「企画趣旨」に上記の「この企画がイケる理由」を盛り込んだ。ここまで形になれば、ほぼ完成したようなもの。

ビジネス書の場合、「タイトル」「キャッチコピー」「著者名」がバシッと決まれば、あとはきわめてスムーズ。

以前勤めていた版元で「企画書の良し悪しは数秒で判断できる」と豪語していた編集長がいたが、コンセプトや狙いが明確であれば、判断は一瞬でつく。逆にいうと、それが曖昧な企画は読者にも伝わりにくい。

後日、幸いにして企画通過後、中尾さんと連絡を取ることができ、快諾をいただき、のちに出版されたのが『最高の結果を出すKPIマネジメント』だ。

「ネタ帳」に書き込んだネタから、実際の出版へと至るプロセスをざっと追った。

企画が通過してからも、これまた刊行に至るまでには山あり谷ありが常だが・・・詳しくはまた後日ということで。

編集者は書籍のタイトルをどうやって練るか?

本の売れ行きを大きく左右する要素に「タイトル」がある。

あくまでも個人的な見解だが、書籍の売れ行きを決める80%くらいの要素が「タイトル」と「カバーデザイン」だと思う。なぜならば、ここでコケると、まず「誰かに手に取ってもらう」という最初のステップをクリアできないからだ。

どんなに内容が素晴らしくて、どんなに時間をかけて作り上げたコンテンツでも、まずは手に取ってもらえないと返品されてしまう悲しい世界である。

カバーデザイン、つまり商品のパッケージを作るにあたっては、商品名=タイトルが決まっている必要がある。

したがって、原稿が揃った段階でもっとも最初にやるべきは「タイトル」を決めること。

タイトルは「商品名」である。

ここで商品の特徴や売りから遠く離れた名前を付けられてしまうと、必要な人に届く確率がグッと下がってしまう。

タイトルのつくりかた①――企画の強みを明確にする

タイトルを練るやり方は各編集者ごとにそれぞれだろうが、私の場合はだいたい以下の過程を経る。

【ひとりタイトル会議】
①企画の強みを明確にする
パンチラインをメモ
③ひとりタイトル・ブレスト
④よさげなタイトルをA4の紙に書き出す
⑤最後に4案ぐらいに絞る

書籍で表現するコンテンツ(あるいは著者)の強みを洗い出す作業は、タイトル案を正しい方向に着地させるために必須だ。なんとなくつけたタイトルは、なんとなく読者に届いて、やっぱりなんとなく売れない結果になることが多い。

ここではサンプルとして、ロングセラーとなった『お金は寝かせて増やしなさい』(水瀬ケンイチ・著)を使って説明をすすめる。

最終的に『お金は寝かせて増やしなさい』というタイトルに決定したこの本だが、企画段階は『誰がやってもうまくいくインデックス投資という仮タイトルだった。

著者の水瀬さんが書き上げた原稿をもとに、水瀬さんと相談しつつ編集作業を進めるなか、次のような要素が加わることで、グングンとコンテンツの強みが増していった。

①各章のあいまにマンガを入れることで投資の紆余曲折をストーリー化
②15年間にわたる水瀬さんの実際のポートフォリオの金額増減を初公開
③ブログ読者から問い合わせの多かった「出口戦略」も解説

②に関しては、さすがに渋る著者の水瀬さんとの度重なる交渉に難航したが、なんとかGOサインをいただく(結果、この内容が大反響を呼ぶことに。水瀬さんありがとうございました)。③の出口戦略は投資指南本ではなかなか言及されないことなので、十分な「売り」になるだろうと踏んだ。

そこで【この企画の強み】を以下に絞った。

本書が持つ「インデックス投資の解説書」という基本要素+αの強み。

・ほったらかしで手間がかからない投資術→△これは優位性ない要素
・日本国内で唯一インデックス投資を15年間続けている著者→◎
・バイブル的ブログ「梅屋敷商店街のランダム・ウォーカー」の著者→◎
・著者が金融のプロではない、普通のサラリーマンであること→◎
・投資のど素人でもプロと互角以上に戦える証拠あり→◎
インデックス投資の「出口戦略」まで触れていること→◎

タイトルのつくりかた②――パンチラインをメモ

次に、①で洗い出した強みを表現するパンチラインをどんどん思いつくままにメモにしていく。パンチラインとはヒップホップ、ラップの世界での「印象的なフレーズ、言い回し」という意味だが、こういうのが意外と移動中とか、なにか別のことをしているときに思いつくことが多い。故に思いついたらすぐにスマホにメモできる体制に日頃していくのが重要となる。

これは次の「ひとりタイトル・ブレスト」の材料にもなる。

タイトルのつくりかた③――ひとりタイトル・ブレスト

ここからいよいよ、タイトルの形をつくっていく。『お金は寝かせて増やしなさい』のときのメモがみつからないため、別の書籍での事例を挙げておこう。

これは『幸せを拒む病』(笠原敏雄・著)という新書のときにやった「ひとりタイトル・ブレスト」の結果だ。

幸福否定
幸福否定論
不幸論
幸福という悪魔
幸せになる覚悟
不幸依存症
ふしあわせがだいすき
みんなだいすき、不幸せ
わたしたちはなぜ、幸せになれないのか。
幸福否定の研究
間違いだらけの幸福論
一番やりたいことを先延ばしして
結局やらずに一生を終えてしまいそうなあなたへ
人生の不幸せがなくなる本
人生の不幸がなくなる本
ひとはなぜ「完全な幸福」を怖がるのか?
しあわせが恐い症候群
心の悪魔の殺し方
「しあわせ」という病い
幸せになれない病
みんなだいすき「不幸(フコー)」の味。
幸せを求めるほど、幸せが逃げていくのはナゼ?
幸福を否定するひとびと
完全幸福否定論
~人はなぜ、いつも「不幸な選択」をしてしまうのか~
つい、不幸を選択してしまうのはなぜか?

タイトルのつくりかた④――よさげなタイトルをA4の紙に書き出す

③でブワーーっと出した案のなかから「これよさげ」と思うタイトルを直感で選んで、A4の紙に「カバー表紙風」に書きだす。これは個人的にはけっこう楽しい作業。③④の作業はお酒飲みながら、一人きりの開放的な環境でやったほうがいいアイデアが出る気がする(なので、いつも家族が寝静まってからやる)。

タイトルのつくりかた⑤――最後に4案ぐらいに絞る

これまた④をブワーーっと書いたら、いったん寝る(ここ重要)。

イデアは熟成させたほうがいいのと、夜な夜なお酒を飲みながら考えたアイデアは60%程度がゴミであることも多いからだ。

前日に直感的に選んで書いたタイトル案を、今度は冷静な頭脳で(なるべく)論理的な理由をつけて、さらに選んでいく。最終的に4案程度に絞る作業を終えたら、孤独なひとりタイトル会議はようやく終了となる。

「三人寄れば文殊の知恵」で決まるタイトル

フォレスト出版では、編集部と営業部のメンバーが顔をそろえて「タイトル会議」をする。その会議に最終的な4案(あるいは4パターンぐらいに分けられるタイトルの方向性)を提案して、みんなであーでもないこーでもないと議論して決めるのだ。

『お金は寝かせて増やしなさい』のタイトル会議では、「タイトルに”インデックス投資”の言葉は入れるべきか?」がひとつの検討課題であった。

当時ベストセラーだった類書も「じつは中身はインデックス投資」だったりしたものの、「インデックス投資」は文字面も硬いし、なにより「インデックス投資という単語を知らない読者に素通りされるリスク」がいちばん怖い。ということで「インデックス投資」はタイトルには含めないことに決まった。

じつはタイトル会議の当日に提案した最終タイトル案は『お金は寝かせて増やす』だったが、編集部メンバーから「うーん、末尾は『増やしなさい』と少し強い調子のほうがいいんじゃないか?」という意見が出て、『お金は寝かせて増やしなさい』に最終FIXした経緯がある。タイトルに限らず、なにごとも「人の意見を素直に聞く」という姿勢は大事だ。

【帯でアピールする要素】
インデックス投資歴15年の実践記を初公開
◎投資の入り口から出口戦略まで一挙解説
◎金融のど素人でもプロと互角以上に戦える
◎ほったらかしでお金が増えていくしくみがつくれる
◎マンガが入っていることがわかるような工夫

で、最終的にこうなった。

 

以上、【本づくりの舞台裏】タイトル編でした。

 

※本記事はフォレスト出版公式noteからの転載です。