〚編集者ブログ〛TeRasaKi THiNKS

書籍編集者の日々のバブル

企画が通る・通らない問題

先日、とある他社の出版社の方々とZOOMで雑談する機会があった。その版元はビジネス書とは異なるジャンルだったが、ジャンル以外にもいろいろ違いがあって新鮮だった。

フォレスト出版「月2回の企画会議」「1回の会議で2本以上の企画書を提出」をノルマにしている。刊行予定点数が足りない場合は2本以上出してもいいし、最近だと書店流通させないネット販売限定書籍とか、ボーンデジタルといった企画もあるので、それらは「+α」の企画として本数には数えない。

つまり、月4から5本の企画を考案してるわけで、年間で合計すると50本前後の企画書を作っていることになる。

一方、各担当者が年間につくる新刊は平均して9点

ということは「企画通過率18%」ということになる。
なかなか狭き門だ。

個人的には「企画がなかなか通りにくい」という状況は健全だと思う。

ご存じのように(といってご存じない方も多いかもですが)、出版業界は「とりあえず新刊出せば、出した分の売上げは取次から振り込まれる」という古くからの業界慣習をベースにした自転車操業の出版社が多いので、「とりあえず新刊を出す」という出版社は多いのが事実だ。

この風潮が業界全体のクビを締めている。

だから「企画がなかなか通りにくい」は出版社としては健康的だと思う。

「企画書の自信度」と「実売」は比例する

じつは、「企画が通る・通らない」はけっこう早い段階で決する。

それは「企画書の段階で企画者自身がイケるかどうか見極めているかどうか」だからだ。

企画者自身が「これは絶対イケる!」と思う企画のほうが、売れる確率は(あくまでも確立論ですが)高い。

企画者自身が「これ、イケるかな・・・?」と不安な企画はえてしてコケる可能性が高い。企画した段階での自信度は、実際のセールスに合致する。自分の場合はほとんどこれ、当てはまる。

「企画書が8割」という人もいるが、あながち間違ってはいない。

企画が通らない理由

「企画が通らない」は編集者の場合、ヤバい事態だ。フリーランスの編集者の場合は「企画=商売のタネ」なので、これが現金化できないとなると死活問題となる。

出版社に属する編集者でも、企画がぜんぜん通らなくて他社に新天地を求めて転職したケースもある(実話です)。

企画が通らないという場合、大きく分けて3パターンが考えられる。

①著者はOKだけど、テーマ・切り口がNG
②テーマ・切り口はOKだけど、著者がNG
③著者・テーマともにOKだけど、切り口がNG

「著者はすごくいい」「プロフィール、実績が魅力的」だけど、「なぜ、この著者がこのテーマを書く必要があるの?もっとふさわしい題材があるのでは?」と問い詰められた場合の理由が弱い企画は通りにくい。②はその逆パターン。

じつは一番このパターンが多いと思われるのが③。著者、テーマともにバッチグーだけど、切り口が弱い場合。よくあるのが「過去の著作とどう違うの?」「どこが新しいの?」という指摘に、スパッと答えられない企画は通りにくい。

「企画が通らない理由」をもう少し深掘りしてみると――

④企画の面白さが企画者以外に伝わらない
これも企画書アルアルだ。「なんで、この面白さがわかんねーのかなぁ……」というジレンマ。企画会議の参加者は「その企画のいちばん最初の読者」と仮定すれば、「面白さが伝わらない」は致命的である。

なので、人によっては
◎サンプル原稿を付ける
◎紙面見本をつくって見せる
といった工夫を凝らして伝える努力をする。

⑤客観的データに乏しい
これは④に近いが、どれだけ面白くてスゴい著者が書いた、超魅力的なコンテンツでも、「面白い」も「魅力的」も受け止め方は人それぞれ、きわめて主観的なため、「面白さ」「魅力」を担保する客観データが必要になる。

「類書の実売」「ページビュー」「指導実績○○万人」「5年先までキャンセル待ち」「講演実績○○○社」といった具体的な数字で、そのすごさをアピールしがち。

そのほか、著者のSNS発信度が最近は問われる。ブログやYouTubeといったメディアを持っているか、持っている場合はアクセス数やチャンネル登録者数はいかほどか、などなど。客観的なデータが「企画が通る状況」を後押しする。

全員賛成の企画は売れるのか?

ここまで進めてきた「企画が通らない問題」の分析だが、逆に「全員賛成」の企画は売れるのか?

ケースバイケースだが、たとえば「出せばある程度の部数は見込める大物著者」であれば、売れる可能性は高い。とはいっても、出版はほとんどギャンブルなので、明言はできない。

人によると思うが、私は全員賛成の企画=最大公約数の企画にはあまりワクワクしない。

ソニーウォークマンの誕生秘話にもこんな一節がある。

「私はこの素晴らしい製品に情熱を燃やしていたが、販売部門の人たちは一向に熱意を見せず、これは売れそうもないと言う」盛田 昭夫 『MADE IN JAPAN』より

当時、一世を風靡したウォークマンだが、開発から発売に至るまで、社内社外問わずに「こんなもん売れるわけない」と総スカンだったそうだ。

周囲の総スカンをモノともせず、セブン・イレブン事業を成功させたセブン&アイ・ホールディングス代表取締役会長の鈴木敏文さんはこんな名言を残している。

セブンイレブンを作った時も、銀行を始めた時も、業界内やマスコミから総スカンを食った。うまくいくなんて誰も言わなかった」

みんなが賛成することはたいてい失敗し、反対されることはなぜか成功する。

スティーブ・ジョブズにも「反対意見が出たら、チャンスだと思え」みたいな名言があったような気がする(出典不明)。

つまりなにが言いたいかというと、盛田昭夫さん、鈴木敏文さん、スティーブ・ジョブズ氏が「みんなが賛成してくれたアイデア」を選んでいたら、ウォークマンも、セブンイレブンも、アップルも生まれていなかったというわけだ。

【結論】
「企画が通らない」「自分のアイデアが理解されない」は
成功のチャンスと捉えよ。

企画を通すための究極の方法

最後に「企画が通らない」とお悩みのすべての人に、「企画を通す究極の方法」をお伝えする。

それは――――――
しつこく何度も何度も手を変え品を変え、企画書を出し続けて、周囲に「こいつアタマおかしいわ」と思わせて、むりやり企画を通す、だ。

結局、企画やアイデアは「言い出しっぺ」の熱量に帰結する。

「そこまでして、おまえやりたいんだ!?」
「じゃあ、思う存分やってみろ!」

こう言わせるまで、しつこく歯を食いしばってがんばりましょう。